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 紅麹事件
投稿:長野 央希
小林製薬が「紅麹」による健康被害と自主回収を発表したのが、3/22でした。6/27に厚労省に対して、「死亡に関して遺族から170人分の相談を受け、そのうち79件で紅麹の接種を確認した」旨の報告を行ったとのことです。これを受けて、厚労相が三か月もの期間報告がなかったことに対して、小林製薬に調査を任せずに、厚労省が調査の管理を行うとの発表をされております。
ここまでの調査によると、現段階では、紅麹そのものの問題というよりは、製造過程で混入したアオカビの影響で生成されたプベルル酸が健康被害を起こした可能性が示唆されております。

そもそも、紅麹というのは、よく食卓でも恩恵を受けている麹とはまるで違うものです。麹は、アスペルギルス族と言う真菌であり、紅麹はモノスクス族と言う真菌です。真菌(カビ)であるという共通項はありますが、カビの種類としては大きく異なっております。
紅麹は、米に紅麹菌を混ぜ入れ、発酵させた米麴であり、その成分の中でGABAは血圧低下に、モナコリンKはコレステロールの抑制にかかわってくるということです。この米麹を作る過程で、アオカビが混入してしまった模様です。
プベルル酸は、腎関係の健康被害を生じさせることは確認されておりますが、本当にこのプベルル酸が、今回の事件の原因物質なのかは現状調査段階であります。
一方で、日本腎臓学会の調査では、これまで報告された患者のほぼ全てがファンコーニ症候群を呈していたとのことです。ファンコーニ症候群とは、腎臓の近位尿細管の機能異常(全般性溶質輸送機能障害)であり、薬剤によって惹起されることがあります。近位尿細管でのカリウム、リン、ブドウ糖、アミノ酸などの再吸収が阻害され、結果的に筋力低下や脱水、倦怠感などの症状を引き起こしていきます。代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾いた状況)が生じるため、治療としては、大量のアルカリの補充を要することになりますが、サイアザイド系利尿剤の投与やカリウム、リン、ビタミンDの補充、充分な水分補給が重要な治療となります。通常は、原因薬剤の中止で、腎機能が改善することが多いのですが、今回は、紅麹の摂取中止後も、腎機能が正常化しないという報告も出てきております。

紅麹中止後、腎機能が長期間かかっても、最終的に正常化していくのか、腎機能障害が残ってしまうのかはもう少し長いスパンで経過を見る必要があります。また、紅麹を摂取後、遅発的に腎機能障害が起きてくる場合があるのかも、もう少し経過を追う必要があります。
いずれにしろ、製造過程で今回はアオカビという異物が混入してしまった事実は重く受け止める必要があります。
とはいえ、アオカビを敵視するのはお門違いです。アオカビはペニシリンという抗生剤の生成にかかわっておりますから、いま世界中で抗生剤の恩恵を受けている多くの人は、アオカビに感謝をしないといけないのです。ブルーチーズが好きな人たちも感謝すべきでしょう(もっとも、アオカビにも種類がありますので、今回の事件のアオカビはどんなタイプなのかも調査を待つ必要がありましょう)
現在起きている健康被害を調査していくとともに、これからまだ被害が拡大するのかどうかも注視していく必要があり、同時に製造過程で異物が混入した経緯を詳らかにし、再発防止をしていくことが極めて重要です。

2024年7月1日(月)

 最近、思うこと
投稿:長野 央希
先週からサッカーのEURO2024が開催されております。連日、日本時間で言うと、夜間、あるいは早朝に熱戦が繰り広げられております。開催国のドイツは、なかなか好調なスタートを切っております。最近の国際大会ではドイツ代表は結果を残せておりませんので、相当に気合いが入っているでしょう。
個人的には昔からイングランド代表を応援してきましたから、今回も応援はしています。ただ、イングランド代表は、昔から多くのタレントを擁している割に、ここぞと言うときに勝負弱かったり、本来の実力を出せなかったりという面が目立ちます。あれだけのメンツなら、もっと完勝しても良さそうなものと思いつつ、この二十年以上、結果が見合っていないように感じてしまうのは私だけでしょうか?また、盛り上がらない試合内容であったりすることもしばしばで、時に退屈とすら言える内容もあることも否定出来ません。もっとも、そういったタレントの割に試合が低調なところや、重圧に弱いようなところが、応援したくなる所でもある気はします。
同時に、デンマークも好きな国で、その両国が昨晩戦い、まさに痛み分けという結果となっております。セルビアもストイコビッチ監督が指揮を執っており、頑張ってほしいところですが、その三国は同一グループにおり、なかなか複雑な心境です。
来月中旬まで戦いは続いていきますが、そんな中、フランス代表のエムバペ選手が、母国フランス国内で、極右政党の躍進を受けて、危機感を募らせ、若者に対し、サッカーの試合よりも重要なことがあるというような主旨の発言をし、選挙に行く様に呼びかけたという報道を見ました。
まさにその通りでしょう。
欧州各国は、移民問題もあり、COVID-19後の経済問題やウクライナでの戦争支援の問題もありで、政治的には大きな変革期を迎えつつあるのかもしれません。英国では、保守党は次回選挙で大敗を喫することが予想されております。
EUの結束の問題も浮き彫りになってくるでしょう。自分達の生きている国や地域の土台に関わる政治に関心を持って然るべきでありましょう。
これまでグローバル化してきた世界で、その反動のように極右政党が力をつけている、あるいは自国ファーストの傾向が強まっているように見受けられます。米国のトランプ氏もそういったナショナリズムを前面に出している印象があります。(彼の場合、どれほど政治に関心があるのかは不明です。自分が売り込めればそれでいいように見えてしまうのですが)

日本ではどうかというと、やはり政治への無関心が問題ではあるのですが、そんな中で、やはりナショナリズム的発言が増えてきているようには思われます。同時に、デマゴーグ化に拍車がかかっているような危惧を覚えます。
今回、東京都知事選の立候補者が50人を越えるという話です。政治に関心がある人たちが多いのであれば、大変結構なことですが、売名行為であったり、ただ単に目立ちたいだけ、面白いから出てみただけというような人たちが多くなり、政治的な主義主張そっちのけで、SNSの登録者を増やす感覚で選挙活動を展開するようであれば、民主主義は退化していくような恐ろしさを感じないわけにはいきません。
日本で、今後ナショナリズムが拡大していけば、早晩、近隣諸国と戦争になるでしょう。国民はその覚悟があるのでしょうか?また、国は万が一戦争になった場合の備えをしているのでしょうか?米国が助けてくれるという保証はないのです。戦争を避けるためにも、我々国民は真剣に政治にも関心を持ち続け無ければならないと思うのです。

2024年6月21日(金)

 業務連絡
投稿:長野 央希
新型コロナウイルスワクチンが新たに発売されましたのを受け、新型コロナウイルスワクチン接種の御希望があれば、お受けいたします。予約制となりますので、あらかじめ御電話にて御予約をお願いいたします。
尚、これまでは新型コロナウイルスワクチンは公費での接種で無料でしたが、今後は公費ではなくなりますので、15000円となります。
その点、御承知おき下さいますようお願い申し上げます。

2024年5月21日(火)

 業務連絡
投稿:長野 央希
5月10日ですが、医師が学校医として健康診断に行く必要があるため、不在となり、午後の診療を15時半開始とさせていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解のほどをお願い致します。

2024年5月7日(火)

 業務連絡
投稿:長野 央希
ゴールデンウィーク中の業務形態

4/29(月)休み
4/30,5/1 9:00〜12:30,15:00〜18:00(通常通り)
5/2(木)9:00〜12:30(通常通り)、午後は発熱外来のみ
5/3 休み
5/4 9:00〜12:30 発熱外来のみ
5/5,6 休み
となります。
宜しくお願い致します

2024年4月22日(月)

 業務連絡
投稿:長野 央希
令和6年4月1日より、新型コロナウイルスワクチンは公費ではなくなります。
現段階では、ワクチンの金額が確定しておりませんので、新型コロナワクチンの御予約はしばらくお待ち下さい。
また、これまでは新型コロナウイルスの抗ウイルス薬として、パキロビット、ラゲブリオ、ゾコーバの3種類が一部公費負担で処方できておりましたが、
4月1日より、他の薬剤と同様に、公費負担がなくなります。その点を御承知おき下さいますようお願い致します。
昨今の報道を受けて、麻疹ワクチンの接種を御希望される方が増加しておりますが、ワクチンの製造量の問題もあり、定期接種の子どもや接種が不可欠な医療関係の学生さんが優先されますので、一般成人の接種希望の方は、しばらくは麻疹ワクチンの接種をお受けできない場合がありますので、その点もご容赦下さい。
宜しくお願い致します。

2024年3月31日(日)

 3月11日
投稿:長野 央希
東日本大震災から、13年が経ちました。震災の関連し含む死者、行方不明者が2万2222人、福島第一原発の事故の影響で現在に至るまで福島県内の7市町村のおよそ310平方キロに及ぶ帰還困難区域があり、避難者は尚2万9000人余という状況です。きわめて大きな爪痕を残していると言わざるを得ません。
一方で、今年の正月に発生した能登沖の地震での被害も甚大です。新潟県は石川県に比べれ被害は軽いといえ、それでも県内の住宅被害は2万294棟(全壊が102,半壊2783,一部損壊1万7395,床下浸水14という内訳)で、西区の避難所には今なお6人の方が非難されている状況です。

私は、東日本大震災の際に3/13〜15と石巻に行っていたこともあり、ひっきりなしに震度3、4程度の余震を味わっていた為、揺れに鈍感になっている感がありますが、患者さんと話していると、今回の能登沖地震の余震で、かなり恐怖を感じている方も多く、精神的な面で慢性的に不安やうつ気味になっている方も少なくないことを実感します。

思えば、2000年に入ってからだけでも、中越地震、中越沖地震と言い、東日本の震災の後も熊本の地震などなど、大きな被害を残した地震がたびたび起きていると痛感させられます。

能登沖の地震が起きる前の年末に、西日本出版社の『写真集 関東大震災』という本を購入していましたが、関東大震災直後の焼け野原のような生々しい写真を見ていると、まるで終戦直後の焼け野原の東京なのかと錯覚してしまうほどです。私は東京、埼玉で働いている際に、好きで人形町や馬喰町などをぶらぶらしていましたが、関東大震災と太平洋戦争を経て、よくここまで復興したものだと今更ながらに感動します。日本人のたゆまぬ努力と、強い精神力のなせるわざだとおもいます。

残念ながら、日本では今後も巨大な地震や大雨などに伴う大規模な水害に今後もみまわれると考えなければなりません。自然には勝てないという謙虚さを持ちつつも、天災に対して、常に対策を講じ続けていく必要があるのだと思います。
少なくとも、日本人が日本人としての誇りを持って、謙虚に勤勉に行動すれば、震災から必ず復興できると信じています。
そのためにも、自分たちは大丈夫という、他人事ではなく、自分の身にも常に起きる可能性があるという意識をもって、危機管理を行っていく必要があります。
3月11日は、そういった意識を新たにするべき日だと思います。


2024年3月11日(月)

 学歴社会の弊害
投稿:長野 央希
依然として、韓国の専攻医等のストライキが続き、仕事を続けている他の医師や看護師達の疲弊も顕著になってきているように見受けられます。
そんな中で、一部報道にて、京機道医師会の会長の発言として、成績の低い医師の診療を受けたがるだろうかという主旨の発言が見られました。この発言が、額面通りの意味だとすれば、思い上がりも甚だしいように思えてなりません。既得権益にしがみつき、新たなマンパワーの増加を恐れているように見えます。
医師を増やすために医学部増員をすれば、質の落ちる医師が増えると言うことなのでしょうが、果たしてそうなのかという疑問がわいてきます。
そもそも、学校の成績が優秀だと、医師としても優秀なのかという話になります。はっきり言えば、それは幻想です。少なくとも、臨床医の能力は、必ずしも学歴を反映しているとは限りません。私が若い頃、偏差値で言えば、一流とは言いがたい医大を卒業した先輩の一人はとても優秀で、大分、その人の勉強の仕方や仕事のスタンスを真似させて貰いました。ただ、医師としての理想とかにおいての考え方の相違はあるので、完全な猿まねにはならないように気をつけていましたが、恐らく自分が医者となったとっかかりにおいては、一番学ばせて貰った人だと思います。逆に、偏差値で言えば、トップあるいはトップ5に入るような大学を出ているにもかかわらず、臨床医としての能力に疑問符がつくような人を少なからず見てきました。今振り返ると、能力の低さを感じさせる要因としては@教科書や論文ありきで考えてしまうA臨機応変に対応が出来ないBコミュニケーションが上手く取れない など挙げられます。
@は現実の患者さんの状態に即して物事を考えるというよりは、論文などに無理矢理にでも、患者さんを当てはめようとしすぎる為、現実に起きていることがないがしろにされてしまう恐れがでてくるのです。Aは、医療というのは、刻一刻と患者さんの状態の変化に対応を迫られるものですが、大きな変化にしばしば対処できないことになります。Bは、患者さんや他の医師、コメディカルと上手く信頼関係が築け無いことにつながります。
勿論、偏差値の高い大学を出て、臨床医としても優秀な人も当然いますし、偏差値の低い大学を出て、医師としての能力も低い人もいます。
ただ、学歴が医師としての能力を保証してくれているとは思えません。
優秀な医師という話になれば、遠くない未来にはAIによって生身の人間である医師は淘汰されてしまうかもしれません。

個人的に、日本が太平洋戦争において大敗を喫した要因の一つは、学歴偏重主義にあったのではと考えています。帝国陸軍も帝国海軍も、いわゆる学校秀才の集う場でした。そして、将来の出世は、陸軍士官学校や海軍兵学校の成績順で決まっていました。しかし、学校の勉強ができるから戦上手というのは、全くナンセンスな発想だと思います。年功序列と学校の席次のために実務的な能力が高い者が、然るべきポストに就けなかった例は相当あったのだと思われます。逆に、米国では、海軍の太平洋艦隊司令長官のチェスター・ニミッツは、少将であった段階で、F.ルーズベルト大統領の抜擢によって司令官に着任したという経緯があります。戦争という人命が関わる、極めてリアリスティックな状況下では、学歴ではないシビアな能力判断が不可欠なのです。ニミッツ大将は、日本の東郷平八郎を尊敬していたと言われています。日露戦争の頃までは、確かに参謀クラスは陸軍士官学校や海軍兵学校を優秀な成績で卒業した者立ちが占めていたと言えますが、司令官クラスは、ほとんど士官学校、兵学校を出ていないか、出ていたとしても初期の、そこまで整備されていなかった時期の卒業生でした。そして、その多くは、鳥羽伏見の戦いや会津戦争で転戦した経験があり、ある意味、叩き上げの軍人といえます。戦争という修羅場を実地で体験していて、官僚化されていない将官がやや官僚化しつつある参謀を時に軌道修正したからこそ、バランス良く戦えたという部分もあったのではないかと考えています。
医療も、人命が関わる物です。学歴によらない能力判断ができる方法はないものでしょうか?
私は、優秀なAIに駆逐、淘汰されてしまうのではないかという漠然とした不安の中で、何とかスキルアップしていきたいと考えながら、日々過ごしています。



2024年3月1日(金)

 韓国医療ストライキ
投稿:長野 央希
先週から、しばしば韓国の専攻医(研修医)の大量退職や欠勤の報道を目にします。
韓国政府が、医師不足解消の為、医学部の入学定員を増やす方針を打ち出したことに対しての反発であるということです。こういったストライキのような行為は、2020年の文在寅政権の時にも、同じような経緯で、医師増員の方針を断念させていましたから、その成功体験が、今回の件にもつながっているのでしょう。
韓国の医療事情というのを、それほど把握しているわけでもないので、あまり無責任なことも書けませんが、少なくとも韓国の人口当たりの医師数は先進国の中でも、最も少ない部類に属しているということは間違いないようです。高齢化が進むことで、救急医療などの現場での医師不足は深刻な模様です。医療賃金の問題、労働環境の問題、訴訟の問題などで、外科や産婦人科を志す医師が少なく、美容外科医として従事する医師は頭数は確保されているという現実的問題を内包しているようです。
確かに、賃金が安く、過酷な労働環境で、訴訟の問題なども少なくないとなれば、そんな茨の道を好んで歩む人は少なくなるでしょう。となると、韓国政府の方針で、医師の数を増やしても、結局、美容外科医は増加する一方で、外科系も産婦人科も救命救急も医師が増えないという可能性も十分考えられるのでしょう。つまり、人を増やすだけでは、片手落ちな政策になりかねないのは事実だと思います。賃金や労働環境の改善などにも着手しなければ、意味がないとも言えそうです。
しかし、人口一人当たりの医師数が少ないのであれば、ある程度の増員は必須であろうと思います。
ストライキをしてまで増員を拒否する意味が理解できません。
韓国という国は、日本以上に学歴重視社会です。やはり、科挙の文化のようなものが根強いのかもしれませんが、受験を勝ちぬいた人たちのエリート意識は日本の比ではないのかもしれません。苦労して医学部に入り、医師免許を取得したという医師層は、増員によって、自分たちの少数精鋭のようなプライドにケチをつけられるのを恐れているのではないかとうがった見方をしてしまいます。また、増員によって、自分たちの仕事の取り分が食い荒らされるという恐怖があるのかもしれません。
どんな理由であるにしろ、ストライキをするということがどういうことかよく考える必要があります。自分たちが医療行為をやめてしまったことで、被害を被るのは誰かというと、当然、多くの患者さんたちです。手術が延期になったり、受診予約を延期させられたりというケースが増加しているようです。
つまり、自分たちの政治的駆け引きのために患者さんの命を人質にしているといっても過言ではないのです。政府との駆け引きで、命を天秤にかけていることがどれほど恥ずべき事かを理解すべきであると思います。
医師が医師でなければ務まらないことというのが、患者さんの命を預かることです。当然、助けたくても助けられない命もありますが、今、ストライキをすることは助かるべき命を助けないということにつながってきます。変なエリート意識を持つ前に、人の命を預かれるという医師としての誇りを思い出すべきではないかと強く思います。

日本で、同じようなことが今後も起きないことを切に願います。


2024年2月26日(月)

 ナワリヌイ氏
投稿:長野 央希
ロシアの反政府活動家のナワリヌイ氏が急死しました。
ロシア当局は死因を「突然死症候群」と発表しております。
乳幼児突然死症候群というのは、しばしば問題になる疾患群ではありますが、大人でこの診断が下されている状況は、私が知る限りでは、正直なところ、初めてです。確かに、死因の判然としないケースというのはあることはありますので、検死をして死因を詳らかにしようとすることになります。
今回、ナワリヌイ氏の場合は、遺体の家族への引き渡しにも応じないことからしても、まともな検死がされることは期待できないでしょう。
突然死症候群というのは、自分たちにとって都合の良い死因に持っていくための便宜上の診断でしょう。
今回が、暗殺かどうかはわかりません。
ただ、三年前に毒殺未遂をされていたことから、今回もロシア政府に対して強い疑惑を持たざるを得ないのは事実です。暗殺だとして、プーチン大統領が直接指示したのか、現場が大統領の意向を忖度して、自発的に行ったのかも判然としません。また、殺害の意図がない中で、拷問によってなくなってしまったという可能性もあり得ますし、かなり劣悪な刑務所環境で、蓄積されてきた身体的ストレスが、彼の命を奪うに至った可能性というのも否定はできないでしょう。
少なくとも、ロシア当局が、検死をして正式な死因を発表することでもない限り、世界中は、ロシア政府を黒に近い灰色として扱い続けることになるでしょう。
ただ、今回の件で現代ロシアの密室での恐ろしさを喧伝していますが、別段、今始まったような恐怖支配ではないでしょう。
ソビエト時代(特に、スターリンやブレジネフ時代)では、恐らく、もっと恐ろしい恐怖支配であったでしょうし、帝政ロシア時代も、相当政治犯への弾圧が熾烈を極めていたのは歴史が証明しています。大体、ロマノフ王朝で、ロシアを大国に押し上げたピョートル一世(大帝)自体が、即位前後で、政敵の姉から何度も殺されかかっているようなお国柄です。
19世紀になっても、ロシア帝国政府の政治犯の弾圧は、当時の小説で、取り上げられています。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの『金縁の鼻眼鏡』では、当時のロシアの弾圧が事件の伏線となっております。
要するに、ロシアはモンゴル帝国から独立を勝ち取ってから、今に至るまで、あの広大な国土を維持するために、相当な恐怖体制を築かずにはいられなかったのだと思われます。最近は、インターネットなどの発展によって、秘密主義が成立しにくくなっているという面はあるでしょう。
とはいえ、今回の件も、証拠がない以上、ロシア当局(プーチン大統領)が犯人と証明するすべはないでしょう。
しかし、今回のナワリヌイ氏の死はある意味、大きな大衆運動を引き起こしてしまうかもしれないと思うのです。
今のロシアは、何となく、ロシア革命前の状況に似てきているように思えてなりません。ロシア革命前は、日露戦争、第一次世界大戦という度重なる戦争により、国民が疲弊し、厭戦気分に陥っているような時代でした。日露戦争の際、大日本帝国は明石大佐をロシアに派遣し、反政府運動の地下活動を金銭的にも支援して、革命運動の起爆剤になっていったという経緯がありました。
今のロシアでも、ウクライナとの戦争が長引けば長引くほど、国民の厭戦気分が高じて、ロシア政府に対しての怨嗟の声が高まっていくのではないかと思われます。そんな中で、自由の大切さを主張するようなナワリヌイ氏のような運動家が、殉職したとあっては、ある意味英雄に祭り上げられることになりえます。ナワリヌイ氏自体は、実はそこまで民衆を動かすだけの実力を持った運動家ではなかったようですが、今回の死で、実力以上の英雄になり、自由を求める民衆の心のよりどころとなっていき、大衆の結束を強める結果につながるかもしれません。今回の事件は、ロシア政府として、将来的に後悔をしてもしきれない出来事になるのかもしれません。

2024年2月19日(月)

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