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 心を置き忘れたくない
投稿:長野央希
私はこれまで、いくつかの病院で勤務をしてまいりました。
都内でも、北海道でも、埼玉でも、新潟の魚沼でも、基本的には地域の中核病院と言われるような病院で働いてきましたが、地域の中核病院と言っても、非常に診療の内容に幅があります。それは医師や看護師、コメディカルの人数によって異なるとも言えますし、その地域の病院の数にもよって異なるとも言えます。
大学病院のように、各医師が専門科のみの治療に専念する病院もあれば、専門科以外もカバーしなくてはならない病院もあります。
私は、長らく医師不足で医師派遣要請している赤十字の派遣医師として、派遣されていた経緯もあり、地域の中核病院と言え、とにかく幅広い診療を求められてきたため、それが当たり前ととらえていました。幅広く、色々な病気の治療にあたるということは、時に恐ろしいと感じることもありましたが、医師不足の地域では、目の前の苦しんでいる患者さんを前にして、自分がやらざるを得ないというような「腹が座る」ような状況になっていった記憶があります。
一方で、大学関連の地域中核病院は大学的なスタンスになるので、当該科以外を診るということは、日当直以外では求められませんでしたし、各医師とも、他科の疾患を治療することに強い難色を示していました。それだけ、各課の意思の人数がそろっているということで、患者さんにとっても、よりよい医療を提供できるという意味で、良いことだとは思います。しかし、自分の専門領域のみ診ると言うことは、自分の科の治療が終了すれば、後はどうでもいいというようなスタンスの医師も生み出してしまいかねないという結果になってしまいます。
私がいた血液内科というのは、非常に専門性の高い領域でありましたので、他科の医師が関与を控えたがるような面もありました。血液内科で治療する疾患は、白血病、リンパ腫、骨髄腫などの血液ガンや、再生不良性貧血、免疫性血小板減少性紫斑病といった疾患が主体になります。どの疾患も、抗がん剤や免疫抑制剤などの治療を行うため、治療自体が、しばしば苦痛を伴うことがあります。患者さんは、治りたいがために、そういった苦痛にも耐えて治療に臨んでいますが、残念ながら、時に治療の甲斐もなく、疾患が治らず、全身状態が悪化していってしまう場合もあるのです。治療がうまくいっている時は、治療者側も患者さん側も気分が良いものですが、一度治療がうまくいかなくなると、両者とも多くの苦悩にさいなまれます。殊に、患者さんの側では、不安や焦燥、不信などの感情がわいてくるものですが、そういった場合に医療者が患者さんにどう寄り添えるかが重要なのですが、医師によっては、自分は治療のみを行っていさえすればいいということで、患者さんの身になって物を考えることが出来ない者もいます。また、様々な治療を行って、病気が治らないうえに、ちりょうによる疲弊で衰弱して、自宅での生活がままならなくなるケースもあり、その場合は、療養型の病院への転院をお願いしたりしますが、この時、自分の医師としての無力感を感じてしまうものでした。治療として、いわゆるガイドラインに沿った治療を行っていても、自分の治療選択が正しかったのだろうか等の自問自答をしつつ、「自分のやるべき治療が終わったから、後はほかのところでお願いします」というのも、非常に心苦しく感じてきました。各病院の治療できるキャパシティの問題があるので、やむを得ないこととはいえ、自分はなんと無責任なのだろうと、自己嫌悪に陥ることもありました。
患者さんを病気のみ診るのではなく、患者さんを全体的に診ることのできる医師になりたいと思い続けています。医師である前に、一人の人間として、人間の心を持った医師でありたいと思っています。

2021年3月5日(金)

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