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 「命の選別」という問題
投稿:長野央希
新型コロナの流行第三波が来たことで、再び首都圏の一都三県では緊急事態宣言が発令されております。大阪や兵庫、京都もその発令を検討中のようですが、そのような大都市では医療機関数も多い分、医療崩壊に至るまでには、ある程度の猶予はあるかもしれません。一方で、大都市ではなくなると、コロナ診療を行う医療機関数も限られてくる分、万が一に感染者数が急増していくと、一気に医療崩壊に至ってしまうことも懸念されます。そのためにはいかに感染者(中等症から重症)を増やさないかがカギにはなってくるでしょう。正直なところ、緊急事態宣言を出すタイミングとしては、既に時機を逸しているように思われます。また、感染が拡大する状況を作らないようにすることが重要ではあるのですが、実際には都内に行って帰ってくれば、必ず感染してしまうというものでもないです。やはり、密な環境で、大きな声で話をしたり、密着したりということが繰り返されれば、感染のリスクは高くなるでしょうし、もしかしたら、電車内の手すりなどに付着したウイルスに接触して、その手で目をこすったり、口や鼻を触れば感染をきたす可能性も高くはなるでしょう。そういった、飛沫感染や接触感染に対して、注意を払うことが重要なのだと思います。
そういう意味ではカフェや居酒屋や寿司屋や牛丼屋などに少人数で行き、静かに飲み食いしている分には、そうそう感染が拡大するとは考えにくいですし、プールや温泉で感染が拡大したという事例もあまり聞きません。
やはり、いわゆる宴会などの集団で大騒ぎをしたり、ライブハウスやクラブのようなところで騒いだりすることが最も感染拡大のリスクを高める行為なのだとは思いますので、そこを控えることが大切なのではないかと思います。もっとも、バカ騒ぎの定義は各人で異なるために、ここまではいいやと考えて、規制緩和してしまうことで、なし崩し的に、何でもありの状況になりかねないのは事実と言えましょう。結果的に各人の考えを尊重していると、行動に自制がかからなくなりかねず、その自制を利かすための緊急事態宣言と言えるのかもしれません。
そんな感染が拡大する中、高齢の方での新型コロナ感染で、重症化した場合に人工呼吸器やECMOによる治療を行うかという点で、それをしないという選択肢が増えてきているという記事を見ました。
命の選別という言葉で書かれておりますが、しかし、御高齢の方に対する治療で、人工呼吸器管理をするか否か等の問題は、何も今回のコロナの件で初めて悩まされるようなものではないことを前もって言っておかねばなりません。入院での治療を行っていれば、当然助けられない命があるのは事実です。その場合に最期をどう過ごしていただくかは極めて重要な問題でありますが、人工呼吸器管理など、徹底的に治療を行う場合もあれば、苦しまないように無理な延命治療はしないようにということで、苦痛を取り除くような緩和的治療を行う場合もあります。特に御高齢の方の場合だと、人工呼吸器管理やECMO管理をして、救命できても、それを契機に認知症をきたしたり、ADL低下のために、寝たきりのような状況になってしまったりということも少なからず起きてきます。そういったことを踏まえ、御家族が呼吸器管理などの集中治療は望まれないケースも多いのが実情です。
コロナではない肺炎の高齢者では、しばしば遭遇するケースです。そういう意味では、医療者は昔から命の選別という問題に悩んできたのです。また、治療法の選別という点では、災害医療におけるトリアージもその範疇に入ると言えます。今回、新型コロナの影響で、そういった悩ましいケースに短時間でしばしば遭遇してしまうということはあるのだと言えます。また、新型コロナと一般の肺炎の患者さんとの違いは、新型コロナでは日々の面会ができないために、治療経過の中で、患者さんが元気になっていっているのか、衰弱していっているのかを家族が目の当たりに出来ないことがあります。毎日面会して、医療者の多くの努力にもかかわらず、患者さんが衰弱していう姿を家人が見ていると、「あまり苦しませたくない」という気持ちになりやすいのかもしれませんが、新型コロナの場合は家人が医療者の治療している姿や治療内容をつぶさに感じられないため、集中治療を断念された場合に、何か釈然としない思いが出てしまう可能性はあります。
「命の選別」はコロナ以前から医療者を悩ませた問題であり、コロナ後も確実に悩ませ続ける問題であります。
人間は必ず最後は亡くなります。その最期をいかに苦しまず、少しでも有意義に過ごしていただけるようにするかというのも、我々医療者が向き合わな変えればならない大きな問題なのだと思います。

2021年1月9日(土)

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