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 児童虐待の問題
投稿:長野央希
『虐待死』(川崎二三彦著 岩波新書)を読みました。
私は子供がおりませんので、子育ての苦労を知らないという意味で、虐待をする親を非難できる立場にはないかもしれません。
しかし、医療者としても、一人の人間としても虐待という問題に関心を持つ必要があると思いますし、国民一人一人が虐待を問題意識をもってとらえることが非常に重要なのだと思いました。
個々のケースレポートを読むと、正直なところ反吐が出そうなほどの嫌悪感や不快感を覚えてしまうような事例が多々ある中で、児童相談所の職員の方々のたゆまぬご苦労には頭が下がる思いです。
この本を読んで、虐待には、トイレで子供を産み落として、死亡させてしまったり、生まれたばかりの子供をロッカーに入れて死なせるといったような嬰児殺しや、親子心中も虐待の一部であるということを学びました。恥ずかしながら自分は不勉強で、虐待と言えば、いわゆる身体的な暴力やネグレクトと言ったもののみを想定しておりました。しかし、言われてみれば、心中なども子供の意思に反して殺害するという意味で、立派な虐待なのだと納得しました。
虐待と言っても、実はそのケースケースで、様々な事情があり、対応も千差万別なのだということも学びました。例えば、再婚親、ステップファミリーのケースや、親が精神疾患を有しているケースも少なからず存在しているとのことで、虐待を糾弾するというよりは両親や一家のサポート体制を整えることが虐待防止につながる場合も多々あるのです。
また、日本的な側面もあるかもしれませんが、体罰を容認する文化を見直す必要があろうかと思います。しばしば、元巨人の桑田真澄さんが体罰が必要ない旨をおっしゃっておられますが、その通りで、しつけには体罰は必要ないことを一人一人が認識する必要があるのだと思います。愛の鞭が美徳とされる風習は是正しなければ、虐待はなくならないと言えます。また、子供は親の所有物であるかのような錯覚を抱いている人が存在しており、まずは子供は自分の意思を有する別人格であることを理解する必要もあると思います。そもそも、子供が親の意見に従い続ければ、結果的に自分でものを考え、判断して行動するというスキルがまるで育たないことにもつながりかねないのではないかと思います。子供の意思をある程度は尊重し、軌道修正が必要な場合は修正してあげなくてはならないのだろうと思います。
加えて、著書内で、虐待する家族内にはDV問題をはらんでいる可能性も指摘されておられました。DVには暴力や暴言がなくても、「支配ー被支配」の関係が成立していれば、十分DV関係に成り立ちえるという点も、なるほどと思いながら読んでいました。支配される側の心理状態を考えると、精神的な恐怖や苦痛はいかばかりのものか、想像を超えてくるような気がします。こういった点をどう向き合うのか等問題は山積していると言えます。
更に、日々労苦をいとわず、ときに注視すること自体が苦痛であるような虐待の現場を目のあたりにしている児童相談所の職員の方々に対して、しばしばマスコミやSNSで正論を振りかざしたような批判がなされ、そういった社会的な逆風で、退職していくような職員の方もおられるため、職員が定着しなかったり、人員が常に不足気味であったりして、結果的に更に児童相談所の職員一人の仕事量が増大し、疲弊していくという悪循環に陥っている現場の話もありました。医療現場もそうですが、常に自分は安全なところにいて、正論をもって批判してくる人の意見に、どこまでの説得力があると言えましょうか?システムを改善させるために正論や理想論を語ることは時に必要ですが、現実を見て、すぐに実行できないような理想論などは机上の空論でしかないと思います。そして、その机上の空論でもって踊らされ、疲弊していく現場を考えると、その理想論が社会のマイナスにつながっているかもしれないことを理解する必要もあるのだと強く思います。
虐待に対する法律やシステム作りは、まだまだ始まって日が浅いと言えます。日々虐待で苦しむ子供たちが絶えない現実を考えると、一刻も早く虐待を撲滅させたい気持ちはわかりますが、早急に事を進めて頓挫するよりは、ゆっくりでも確実な進歩の方が、長い目で見ると重要なのではないかとも思います。これまで、虐待で命を落としてきた多くの命を無駄にしないためにも、社会全体が一丸となって、この問題に取り組むことが必要だと痛感しました。

2020年11月9日(月)

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