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 黒死病から考える
投稿:長野央希
私は子供の頃から歴史が好きで、その兼ね合いもあり、医学史にも関心を持っております。アラビア医学などにも興味がありましたので、よくそういった類の本を読んでいたものです。歴史は古いものではなく、そこからエアられる教訓も多大なものがあります。
今回、ジョン・ケリー著『黒死病 ペストの中世史』を読みました。
黒死病は致死率が50%にもなるような恐ろしい感染症でした。この感染がユーラシア・アフリカ大陸を席捲し、恐怖に陥れたといっても過言ではありません。ヨーロッパ各国でも尋常ではない死者数を出して、その後も長きにわたり甚大な傷跡を残しました。黒死病はペストではなかったという学説を唱える学者もいますが、恐らくはペストだったのだろうと思われます。
いずれにしろ、現在のエボラ出血熱を超えるようなインパクトのある感染症であったことは間違いないでしょう。
歴史的なうねりが黒死病の流行する下地になったようです。
@モンゴル帝国による軍事的、商業的なグローバリゼーションがあった
A黒死病流行の前四半世紀で長雨や火山活動の活発化による天候不順、慢性的な飢餓状態があった。
B殊に中世欧州では宗教的な面も含めて、著しく不衛生な環境にあった。

@によって、それまで中央アジアの風土病のようなペストがグローバル化の波の乗って、アジア、ヨーロッパを経てアフリカにまで波及しました。
Aによって、慢性的な飢餓状態にある子供たちが成長し、成長期の栄養失調による免疫低下が感染の重症化につながった可能性も考えられるようです。
B関しては、キリスト教の教えもあり、入浴自体を望ましくないと考える風潮があり、また、自分の家の汚物やごみを、家の前の道に投げ捨て、それを放し飼いの豚が食べているというような極めて不衛生な環境にあった模様です。19世紀に至るまで、セーヌ河やテームズ河といった河川は汚物ためのような状況に近かったようです。
この不衛生な環境が、ペストを媒介するノミやげっ歯類にとって、極めて住みやすかったことは想像に難くありません。

黒死病は、その感染力や致死率の高さから、社会不安を招きました。肉親が感染しても、病気の怖さから、看護もされず放置され、結果的に黒死病で死ぬのみならず、栄養不良などの要素で死んでいくケースもあったのだろうと思われます。そして、デマが拡散され、ユダヤ人やハンセン病患者が井戸に毒を流したという馬鹿馬鹿しいうわさによって、ヨーロッパの広い範囲で
多くのユダヤ人やハンセン病患者などの弱者が虐殺されてしまうという事件も多発しました。

流石に、現代はこのような狂気じみた問題は起きないだろうと思っていますが、科学が進歩しても、人間の心性や本質は、そうそう変化しません。
今回の新型コロナは黒死病ほどの致死性もないとはいえ、根拠のあるなしに関わらず、風評被害が後を絶ちません。もっと、社会不安が強まれば、狂信的な行動に走る人が増えてもおかしくないでしょう。
くれぐれも冷静な態度が必要です。
中世の黒死病から得られる教訓も多々あります。
やはり、衛生環境をいかに良いもので保てるかが極めて重要です。
殊に感染症においてはです。また、一部のウイルスにはがん発生に関わるものもありますので、将来的には感染だけで無く発癌にも影響を及ぼしていることが判明してくるかもしれません。
衛生的であること自体は、特に難しいことではなく、誰でも実践出来ることです。清掃をする、手洗いや適度に入浴(シャワー)をするなど日常でできる小さな努力を続けながら、日々冷静に暮らしていきたいものです。

2020年8月18日(火)

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